
犬の歯石取りの方法とは?病院へ行くべき症状と自宅での予防法まで獣医師が解説
愛犬の口臭や歯の黄ばみが気になり、歯石がついているのではないかと不安を感じている飼い主さんは非常に多いです。犬の歯は人間よりも歯石に変わるスピードが早く、放置すると歯周病から全身の健康にまで悪影響を及ぼすおそれがあります。
病院で除去すべきか、自宅でケアできるのか、あるいは麻酔が怖いと悩む方もいるでしょう。本記事では、獣医師の視点から歯石ができるメカニズムや、病院へ行くべき具体的なサイン、家庭でできる予防法を解説します。最後まで読むことで、愛犬を病気のリスクから守り、健康で長く一緒に過ごすための最適なケアが学べるはずです。

著者
藤井 麻乃子(ふじい そのこ)
愛犬のための水分補給トッピングスープ 「ones」 スタッフ
ミックス犬2頭と暮らす愛犬家。シュナウザー×マルチーズのパピーと、プードル×イングリッシュスプリンガーの3歳の成犬と日々の暮らしを楽しみながら、実際に試した安心・安全なドッグフードレビューを中心に情報を発信しています。

著者
飛田 邑貴(とびた ゆうき)
愛犬のための水分補給トッピングスープ 「ones」 代表
【経歴】2018年、株式会社gojuonを創業。愛犬のゴールデンレトリバーとの別れをきっかけ
に、愛犬たちの食事と向き合い、2020年に完全オーガニックフレッシュフード「BIO POUR CHIEN」の代表取締役に就任。2022年、愛犬のための水分補給トッピングスープ「ones」をリリース。現在は、オーストラリアンラブラドゥードルと暮らしながら、手作り食とドライフードと併用。
犬の歯に歯石がつく原因

犬の口内環境は人間と大きく異なり、食べかすが歯垢になり、さらに歯石へと変化するスピードが非常に速いのが特徴です。
特に唾液の性質がアルカリ性であるため、細菌が繁殖しやすく石灰化が進みやすい環境にあります。愛犬の健康を守るためには、まず歯石ができるメカニズムを正しく理解し、早期のケアを心がけることが大切です。
犬の歯は人のおよそ3倍も歯石がつきやすい?
犬の歯に付着した食べかすは、わずか24時間ほどで「歯垢」という細菌の塊に変わります。 人間の場合は歯垢が歯石になるまで25日ほどかかりますが、犬はわずか3〜5日しかかかりません。
このスピード感の違いこそが、犬の口内トラブルが急激に進行しやすい最大の理由と言えます。なぜこれほど速いのかというと、犬の唾液が「弱アルカリ性」だからです。アルカリ性の環境では唾液中のミネラル成分が沈着しやすく、歯垢の石灰化を強力に促進してしまいます。
一度歯石になってしまうと、通常の歯磨きだけで落とすことはほぼ不可能です。日々のブラッシングで歯垢のうちに取り除くことが、歯石を作らせないための鉄則となります。
歯石が原因で愛犬がかかる病気

歯石を放置すると、お口の中だけでなく全身に深刻な影響を及ぼします。最初は歯肉の炎症から始まりますが、進行すると歯を支える骨まで溶かしてしまいます。
細菌が血流に乗って心臓や腎臓などの臓器にダメージを与えるおそれもあるため注意が必要です。
歯肉炎
歯肉炎は、歯垢の中の細菌が原因で歯茎に炎症が起きた状態です。歯茎が赤く腫れたり、硬いものを食べたときに出血したりするのが特徴です。
この段階ではまだ、歯を支える土台となる組織にまで大きなダメージはありません。愛犬の口臭が少し気になり始めたら、それは歯肉炎のサインかもしれません。
適切なスケーリングや丁寧な歯磨きを続ければ、元の健康な状態に戻すことが可能です。放置すると次の段階である歯周炎へ進行するため、早期発見と対策が非常に重要になります。
歯周炎
歯肉炎が悪化し、歯の根元や骨にまで炎症が広がった状態を歯周炎と呼びます。歯周ポケットが深くなり、大量の膿が出たり歯がグラついたりし始めます。強い痛みで食欲が落ちるほか、顔の骨が溶けて皮膚に穴が開くケースもあり大変危険です。
一度溶けてしまった顎の骨を、元の形通りに再生させることは非常に困難と言えます。さらに恐ろしいのは、細菌が血管を通じて心臓や肝臓などの全身疾患を引き起こすことです。愛犬の命に関わるリスクを避けるためにも、手遅れになる前に専門的な歯科治療を検討してください。
犬の歯石を取る方法

犬の歯石除去は、家庭で落とせない硬い汚れを病院で取り除く専門的な処置です。全身麻酔をかけることで、歯の表面だけでなく歯周ポケットの奥深くまで安全かつ確実に洗浄できます。
愛犬の状態に合わせた適切な治療法を選ぶことが、健康な口内環境を取り戻すための第一歩です。
全身麻酔を行う場合
動物病院での本格的な処置には、基本的に全身麻酔が必要となります。麻酔をかけることで犬の恐怖心や痛みを取り除き、超音波スケーラーで徹底的に汚れを落とせます。特に、歯石が溜まった歯周ポケットの洗浄や歯の裏側の研磨は、麻酔なしでは不可能です。
処置前には血液検査などを行い、愛犬の健康状態を慎重に確認した上で進めます。全身の健康状態をトータルで管理できるのが、病院での麻酔下処置の大きなメリットです。安全性を最優先にした体制で処置を行うため、飼い主さんの安心感も高い治療と言えます。
犬が歯肉炎の場合の治療
歯肉炎の段階では、歯石を取り除き表面を磨く「スケーリング」が中心となります。超音波を使って歯の表面にこびりついた歯石を弾き飛ばし、汚れをリセットします。処置の仕上げとして表面を滑らかに研磨し、新たな汚れがつくのを防ぎます。
早期の対応であれば、抜歯をせずに健康な歯肉を取り戻せる可能性が非常に高いです。
犬が歯周炎の場合治療
歯周炎まで進行している場合は、抜歯や外科的な処置が必要になるケースが多いです。深くなった歯周ポケット内の汚れを掻き出し、感染した組織の洗浄を行います。
温存が難しいほど骨が溶けている歯は、痛みの原因を断つために抜歯を選択します。麻酔下だからこそ、深い部分の処置も確実に行い、術後の痛みを抑える治療が可能です。
全身麻酔を行わない場合
一部のサロンなどで行われる無麻酔の歯石取りは、あくまで表面上のケアです。犬が動くため鋭利な器具で口内を傷つけるリスクがあり、深い歯周ポケットの掃除はできません。見た目はきれいになりますが、肝心の歯周病菌は残ったままである点に注意が必要です。
また、研磨が不十分だと表面が傷つき、かえって歯石がつきやすくなる側面もあります。医学的な「治療」ではなく、あくまで美容目的の処置であることを理解しておきましょう。麻酔を避けたい気持ちに寄り添いつつも、リスクを正しく評価することが大切です。
愛犬の歯石で病院へ行くべき症状

愛犬の歯石に気づいた際、どのタイミングで受診すべきか迷う飼い主さんは少なくありません。放置された歯石は歯周病を悪化させ、やがて強い痛みや全身の健康被害を引き起こします。
日常の仕草に現れるSOSサインを正しく見極めて、手遅れになる前に相談しましょう。ここでは病院へ行くべき具体的な基準を3つ解説します。
強い口臭や歯茎の赤み・出血が見られる
犬の口臭が急にきつくなったと感じたら、それはお口の中で歯周病菌が大量に繁殖しているサインです。犬の唾液はpH8〜9の弱アルカリ性で、人間よりも細菌が住みつきやすい環境にあります。歯石が歯茎を圧迫すると炎症が起き、健康なピンク色だった歯肉が赤く腫れ上がります。
さらに進行すると、軽く触れたり硬いものを食べたりしただけで簡単に出血するようになります。出血や強いニオイは、口腔内の環境が著しく悪化している深刻な警告です。歯ブラシに血がつくようになったら、家庭でのケアだけで改善するのは難しいため、早急に獣医師の診断を受けてください。
食べこぼしや片側だけで噛むなど食事の様子がおかしい
歯周病による痛みは、犬の食事の仕方に顕著な変化をもたらします。大好きだったドライフードをこぼしたり、片側の歯だけで慎重に噛んでいたりする場合は注意が必要です。痛みから食べ物をうまく咀嚼できず、丸呑みする回数が増えることもあります。
また、食欲はあるのに食べ始めるとすぐに止めてしまうのは、歯がしみて痛む「知覚過敏」に近い状態かもしれません。食事を嫌がるような仕草は、単なる好き嫌いではなく痛みのサインです。美味しいはずのごはんが苦痛の時間になってしまう前に、適切な治療を検討しましょう。お口の健康を守ることは、愛犬の食べる喜びを守ることに直結します。
顔の腫れや前足で口元を気にする仕草がある
歯周病が重症化すると、歯の根元に膿が溜まる「根尖周囲膿瘍」を引き起こすことがあります。この状態になると、目の下が急に腫れたり、皮膚に穴が開いて膿が出てきたりするため非常に危険です。犬が前足でしきりに口元をこすったり、顔を床に擦り付けたりする仕草は、強い違和感や不快感の現れです。
また、大好きだった頭への撫でられを急に嫌がるようになるのも、口腔内の痛みを避けるための自己防衛かもしれません。見た目の変化や行動の異変を感じたときは、病状がかなり進行しています。二次的な感染症を防ぐためにも、異常を感じたら一刻も早く動物病院の受診を推奨します。
愛犬の歯石の予防と家庭でできるケアと注意点

歯石は一度つくと家庭で完全に取ることは難しく、予防が最大の鍵となります。毎日のケアで歯垢を溜めない習慣を作ることが、愛犬の健康寿命を守ることにつながります。
ここからは、家庭でできる具体的な予防法と、市販品を使用する際の注意点について詳しく見ていきましょう。
歯垢が歯石になる前に歯磨きをする
犬の歯垢が歯石に変わるスピードは非常に速く、わずか3〜5日ほどで石灰化が始まります。 この期間内に汚れを落とすことが、健康な歯を保つための最も重要なポイントです。歯ブラシを使って歯と歯茎の間の汚れを丁寧に書き出し、細菌の増殖を抑えましょう。
最初からブラシを嫌がる子の場合は、指に巻くガーゼやシートから始めるのがおすすめです。また、水分をしっかり摂取させることで、お口の中を洗い流し清潔に保つ効果も期待できます。
市販のクリーナーでは歯石は溶けない
ネット広告などで「歯石がポロッと取れる」と謳うジェルやスプレーをよく見かけますが、医学的根拠は乏しいのが現状です。石灰化した歯周ポケット内の歯石を、薬品だけで完全に溶かすことは不可能です。市販のケア用品はあくまで歯垢を落としやすくする「補助」として考え、過度な期待は避けましょう。
表面の汚れが落ちて一時的に白くなったとしても、歯周病の原因となる歯茎の下の細菌は残ったままです。間違ったセルフケアで安心してしまうことが、かえって病状を悪化させるリスクになることを忘れてはいけません。
愛犬が歯槽膿漏になったらすぐに医師へ相談しよう
歯槽膿漏(重度の歯周炎)になると、歯の根元から膿が出たり、強い痛みで食事を摂れなくなったりします。この段階では家庭でのケアは限界を超えており、放置すると細菌が血液に入り込み、心臓や腎臓へダメージを与えます。愛犬の歯茎が紫っぽく変色していたり、歯がグラついたりしている場合は、すぐに動物病院を受診してください。
専門的な洗浄や必要に応じた抜歯を行うことで、愛犬の痛みを取り除き、健康状態を改善できます。早期の医療介入こそが、愛犬を苦しみから救い、二次的な感染症を防ぐ唯一の手段となります。
「犬 歯石」に関するよくある質問

犬の歯石ケアについて、飼い主さんが抱きやすい疑問をQ&A形式でまとめました。 自分で取る際のリスクや放置する怖さ、気になる費用や高齢犬での対応、歯石が自然に取れる理由まで回答します
愛犬の状況と照らし合わせながら、正しい知識を身につけて最適な判断をしていきましょう。
- Q1.犬の歯石は自分で取れますか?
- Q2.犬の歯石を放置するとどうなる?
- Q3.ペットの歯石除去の費用はいくらですか?
- Q4.高齢犬ですが歯石取りはできますか?
- Q5.歯石がポロっと取れるのはなぜですか?
Q1.犬の歯石は自分で取れますか?
A.市販のスケーラーなどで目に見える箇所の歯石を削ることは可能ですが、医学的には推奨されません。一番の問題は、歯周病の根本原因である歯周ポケット内の汚れが全く取れないことです。
また、不慣れな操作で歯のエナメル質に細かな傷をつけてしまうと、以前よりも細菌が付着しやすくなるデメリットもあります。無理に自分で行うと愛犬の口内を傷つける恐れもあるため、病院での専門処置を優先するのが安全です。
Q2.犬の歯石を放置するとどうなる?
A.放置された歯石は歯周病を悪化させ、歯を支える骨を溶かして最終的には抜歯が必要になります。それだけでなく、お口の中で繁殖した細菌が血管を通じて全身に回り、心臓や腎臓などの重要臓器に疾患を引き起こすおそれもあります。
重症化すると顔の皮膚に穴が開く「根尖周囲膿瘍」になるケースもあり、愛犬に激しい苦痛を与え続けることになります。歯石の放置は健康寿命を縮める大きな要因になるため、早期の発見と適切な対策が不可欠です。
Q3.ペットの歯石除去の費用はいくらですか?
A.動物病院での処置費用は、麻酔代や術前検査を含めて3万円から7万円程度が一般的です。抜歯が必要な本数や歯周炎の進行具合、入院の有無によっては、総額がさらに高くなる場合もあります。
また、多くのペット保険では「予防目的」の歯科処置は補償対象外となるケースが多いため、契約内容を事前に確認しておきましょう。費用は決して安くありませんが、将来のさらなる重病化を防ぐための大切なメンテナンス費用だと言えます。
Q4.高齢犬ですが歯石取りはできますか?
A.高齢であっても、術前の血液検査や心エコーなどで全身状態を把握し、問題がなければ麻酔下での処置は可能です。むしろ、高齢だからこそ歯周病の痛みで食欲が落ちたり、免疫力が低下したりするデメリットの方が深刻と言えます。
最近はシニア犬向けの高度な麻酔管理も行われているため、年齢を理由に諦める必要はありません。年齢だけで判断するのではなく、愛犬が残りの犬生を痛みなく過ごせるよう、獣医師とじっくり相談してみましょう。
Q5.歯石がポロっと取れるのはなぜですか?
A.硬くなった歯石が衝撃や咀嚼によって剥がれることがありますが、これは根本的な解決ではありません。取れたのは表面の「氷山の一角」であり、歯周ポケットの中には依然として多くの歯周病菌が残っています。
また、剥がれた後の歯は象牙質が露出してしみやすくなったり、脆くなっていたりすることも多いです。一部がポロっと取れたからといって安心せず、隠れた病変がないか一度全体の状態をプロに診てもらうようにしてください。
まとめ

犬の歯石は、人間よりもはるかに速いスピードで形成され、放置するとお口の中だけでなく全身の健康を脅かす存在となります。わずか3〜5日で歯垢が歯石に変わってしまうため、気づいたときには家庭でのケアだけでは対応できないことも少なくありません。
犬の歯石は放置すると歯周病を悪化させ、内臓疾患や顎の骨折など命に関わる重大なトラブルを引き起こすおそれがあります。口臭の悪化や食事の仕方の変化といった小さなサインを見逃さず、異常を感じたら早めに専門医へ相談することが大切です。
既存の歯石は病院で安全に取り除き、その後の健康な状態を維持するために、毎日の正しい歯磨きを習慣化しましょう。毎日の丁寧な歯磨きで歯石を予防し、すでについてしまった分は動物病院で安全に除去してもらうことが愛犬の健康寿命を守る最短ルートです。
お口の健康を守ることは、愛犬が一生美味しくごはんを食べ、元気に過ごすための最高のギフトになるはずです。